マディソン群の橋 〜 プロダクションノート

「僕がキンケイドに惹かれたのは、自分自身をしっかり持っている男だからだ。彼は、独立心がありクリエイティブだが、人生をゆったりと静かに生きている。彼は自分の人生をエンジョイすると同時に、強い責任感も持っている。誠実で高潔、それでいて人間味を感じさせるキャラクターなんだ。」

イーストウッドにとって、キンケイドとフランチェスカの関係は、二人の想いの深さ、強さを示すものだった。
「二人とも、自分が暮らす社会に適応できないんだ。だからお互いを知れば知るほど、相手がどんなに稀有な存在かを理解する。そして自分の人生に何が欠けていたかに気付くんだ。
愛情はその後に芽生える。
一緒にいれば、全てのものが輝いて見え、別れることが耐え難くなる。」


静かで平穏な生活の中で、キンケイドへの激しい想いを秘めて生きるフランチェスカ役には、スター女優の多くが興味を示し、何人もの候補者の名前が挙がっていた。このキャスティングについてイーストウッドは、「僕が電話をかけた相手は、メリルストリープただ一人だった。」と語っている。そして、その絶大な信頼と期待は、各方面から絶賛された彼女の演技で、見事に報いられたのである。

メリルストリープは、イーストウッドがどんなふうにして、カメラの前と後ろの仕事を両立させるのか、とても興味が合ったと言う。
「以前、監督も兼任している俳優と共演したけれど、彼らは共演者の私を見ずに、監督の目でシーンを見てしまう傾向があるの。キンケイドは微妙で感情的な役だから、彼がなぜ、冷静にならざるを得ない監督という役目も引き受けたのかわからなかった。
でも彼は、カメラの前では俳優に徹し、結局私は、役者としてのイーストウッドと心ゆくまで演技ができたの。彼が、監督という別の側面をもっていることを、一度も感じなかったし、心を開いて演じる彼は、本当に見事だったわ。」

マディソン群の橋の製作に際し、イーストウッドは映画を作る目的を明確にして、それをどう表現し、映像化するかという事に心を砕いた。
「本のように、率直でシンプルな映画を作りたかった。だから俳優たちの関係が、登場人物たちのように自然に発展していくように、ストーリーの流れ通り順を追って撮影したんだ。」とイーストウッドは語っている。

本作品で、メリルストリープと初めて共演したイーストウッドは、「キンケイドがフランチェスカという女性を知っていく過程と、私自身がメリルという女優を知っていく過程がオーバーラップしていた。
興味深い経験だったし、結果的に二人のラブストーリーの流れが、自然なものになったと思うよ。」と語っている。


物語の舞台となった、アイオワ州マディソン群のウィンターセットは、実在の土地だ。
小説同様、この地が映画の撮影に使われた。
二人の出会いのきっかけとなるローズマンブリッジも、二人が別れた92号線も実在し、メインセットとなるフランチェスカの家には、修復された農家が使われている。

小説の舞台となった、素朴で美しい風景の中で撮影が行われたことも、二人が役になりきる助けとなったには違いない。
「特撮もなければ、入り組んだショットも特別なトリックもない。そういうところが好きだ」とイーストウッドは付け加えている。

*マディソン群の橋 DVDプロダクションノートより抜粋しました